手のひらでインターネット

情報はいつか空気のように・・・・ウェアラブル・コンピュータの世界へ!

残念ながら古代に書物は存在しなかった。「情報」は洞窟に描いた絵や、歌で伝承するしかなかった。中世、書物は「宝」であった。物理的な抗争の後、確実に国を滅ぼしたり、その復興を遅らせるには、普物を焼いて「情報」を消してしまえば、その効果は絶大だった。

印刷技術というものがまったくなかった手書きの時代、教会の重い聖書は、心ない人による盗難を恐れて鎖で祭壇にくくられていた。庶民が本を気軽に携帯できるようになったのは、グーテンベルクの活版印刷技術が確立されて、妥当な価格の本の「量産」が可能になった中世以降である。

近世、力任せのアナログ印刷技術の進歩に加え、デジタル印刷技術とシステマチックな編集技術に支えられて、「本」や「新聞」は媒体から 「マスメディア」に変貌を遂げた。石や壁から「紙」にその媒介基盤を変更して「モービルできる情報」となった文字が、今や電子出版、オンライン出版という目に見えない形でネットワーク上を交錯している。本や新聞に象徴される「見える情報」は今まさに、常に身につけられる汎用の記憶メディアに向け、ネットワーク経由で最新のコンテンツが配信される 空気のような存在に変わろうとしている。

ベルが電話を発明した当時、電話は、遠く離れて会うこともできず、声も届かない二人の人間が意思を相互に通じ合える 「ワイアードな魔法の小箱」であった。残念ではあるが、経済的な理由から普通はどこの家にも一つしかない貴重な先端テクノロジー製品でもあった。技術の進歩は本来、家庭内にしか存在できないはずだった電話機を、街頭にも、移動する交通機関にも配置し、なおかつ世界中のすべての電話機をネットワークにしてしまった。そして今や、電話機は「一家に一台」から「一人に一台」 中世の教会の貴重な聖書のように鎖でつながれない、ワイヤレスな、「パーソン・ツー・パーソン」の、気軽に「モービルできる情報機器」となったのである。

今日、「頭と足」を持つ、考えながら歩き回る動物の代表である我々人間は、これらのテクノロジーインフラストラクチャを背景に、「空気のような情報」をいつでもどこでも簡単に入手し、選択し、思考し、情報の再生産、再発信を行おうと模索している。近代テクノロジーの代表選手のようにいわれているパーソナルコンピュータの世界も例外ではない。モビリティの低い、大きな 固定された「神棚パソコン」は、起源を異にしてスタートした「本」や「電話」の進化と同じ過程――低価格化、パーソナル化、携帯化、ネットワーク化という道を、より短期間で歩んできているように思える。

ただ残念ながら、現代の最新のテクノロジーをもってしても、今世紀中には「これだけですべて大丈夫!」 といえる 「ハイブリッドされた情報機器」は出現しそうにない。日夜、情報の荒野を駆けめぐる我々ビジネスマンに必要なことは、現代に存在しているテクノロジー製品のどれとどれを組み合わせてより効果的に活用するかということであろう。

重さたった75gの 「ChipCard」は、現代のビジネスマンの三種の神器の一つであるモービルPCや、ホームオフィスのデスクトップPCと組み合わせて初めて価値が出る「ウェアラブルなガジェット」である。ネットワークされたPCから切り出された最新の情報をChipCardに詰め込んで、君もサイバーメトロに飛び出そう。本書は、やっと手に入れた、日夜目まぐるしく変貌する貴重な情報を、ウエアラプルなインフォメーションに変えて、いつでも、どこでも活用できる「第二の脳」(アルタブレイン) を構築するよきアシスタントとなるだろう。

この本を生かすも殺すも、君の好奇心にかかっている。
もうすぐ21世紀。好奇心のない人間は生きていけそうにない。

平成8年7月 T教授

はじめに

今ではそこにあるのが当たり前のような顔をしているのに、かつてはマニアにしか使いこなせなかった――私たちの回りにはそんな過去を持っている製品がいくつもあります。最初は高価で、不細工で、使いにくくて・・・・・・。テレビ、ビデオ、電卓などなど、例をあげればきりがありません。

今や「カンタン、カンタン」というキーワードが氾濫し、コンピュータにまるきり無縁そうなおじさんたちがCMに登場して、購入意欲をあおっているパソコンも、それらの代表選手でしょう。

かつてパソコンがマイコンと呼ばれていたころは、ソフトがないのは当たり前でした。今のようにフリーウェアがBBSにごろごろしている時代でもありませんから、自分でハンドアセンブルをするか、唯一の情報源である雑誌に公開された16進ダンプリストを一生懸命手で打ち込まなくてはならなかったのです。一つのソフトを動かすにも、大変な手間暇をかけていたわけですが、その分、体で覚えることができたのも事実でした。スーパーの店頭に並べられた初心者向けパソコンに、軒並みPentiumプロセッサが採用され、GBクラスのハードディスクが付き、さらにWindows 95はおろかハードディスクの空き領域がなくなるほどのおまけソフトがインストールされている時代からすると、まさに隔世の感があります。

しかし現在のパソコンは、かつてのマイコンに比べてユーザーインタフェースは飛躍的に進歩しましたが、ハードウェアのみならずソフトウェアまで、まるきり見えなくなってしまいました。一抹の物足りなさを感じるのは筆者だけではないでしょう。

そんなとき、まるで時計の針をマイコンの時代に戻したかのようなクラシック、なスペックで、ChipCardはその姿を現しました。もちろんPCMCIA Type II/IIIという最新の衣をかぶってはいますが、中身はあのころと同じ8ビットです。アプリケーションが貧弱なところもいい勝負です。

筆者は、ほとんどアプリケーションのないChip Cardに魅せられて、TC-100の時代からソフトウェアを開発してきました。今や、白紙に近いコンピュータにゼロからソフトウェアを構築する、というチャンスはそう多くはありません。

ChipDiskはファイルシステムとシェルを兼ね備えた、いわばChip Cardのオペレーティングシステムであり、 ChipScapeはその上で動作するHTMLファイルプラウザです。ChipDiskの開発コンセプトは「見えるディスク」, Chip Scapeは「手のひらで見るインターネット」でした。プログラミングはすべて一人で行っていますが、たった一人でOSからアプリケーションまでカバーできるところも、ChipCardならではでしょう。

本書は, NIFTY-Serveで公開していたそんなソフトウェアを一段と機能アップして「書籍+ソフト」の形にまとめたものです。マニュアルもほとんど書き直し、詳しい技術情報も追加しています。また、Chip CardプログラマーのためのChipDisk用アプリケーションのサンプルコードも含んでいます。

ChipScapeは、もともと筆者が朝日新聞のホームページを読むために作ったHTMLファイルブラウザですが、使ってみると思いのほか便利なソフトでした。なにしろ新聞も開けないくらい混雑した通勤電車の中でも、 ChipScapeなら片手で新聞記事が読めるのです。しかもインターネット上の新聞は「電子」の情報ですから、隣の人が読んでいる印刷された紙の新聞よりも新しい情報を得ることができます。新聞休刊日にもその日の記事を読むことができるのです。そして、紙と違って読み終わった後にゴミにならないところも、ささやかながら地球環境に貢献できる長所だと思います。

もう一つ決定的なポイントは、インターネットは自由な情報が前提ですから、インターネット上の新聞には料金がかからない*ところです。もちろん通信費や電気代等はかかりますが、ChipScape新聞に購読料はいりません。

Netscape Navigatorやインターネットエクスプローラなどの本家のプラウザが動くPC環境と比べると VW-200はおおまかにいって、画面サイズは1024×768分の320×200,色数は256分の2, CPUのクロックは100M分の1M, メモリは16M分の128Kという非常につつましい環境ですが、その上でも堂々とインターネットからダウンロードしたホームページが読めてしまうのです。

ウェアラブルコンピューティングには恐竜のようなCPUもOSも似合いません。今のパソコンはあまりにもグラフィカルインタフェースにリソースを使いすぎて、本来の処理はおまけのようになっているのではないでしょうか。たしかにインターネットの特徴の一つは美しいグラフィックス画面ですが、多くの人は、文字情報によって必要な知識を得ています。そのとき、画像や音声は手助けでしかありません。ChipScapeは表示を文字のみに制限していますが、有用な情報量は、決して2000万分の1ではないのです。

筆者は、このChipScape/ChipDisk+VW-200がウェアラブルコンピューティングの新しいーページを開く、と確信しています。はるか昔、「石」から「紙」に変わった情報媒体は、また「石」、つまりChipに戻りました。

さあ、出かけましょう。VW-200にChip ScapeとChip Disk, それにお気に入りのHTMLファイルとソフトをいっぱい詰めて。

平成8年7月 筆者

羽鳥,高橋,ChipScape for VW-200 手のひらでインターネット,1996,ソフトバンクBOOKS,ISBN4-7973-0031-0,より抜粋

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Author: hatori
メンターの羽鳥(ハトリ)です。(イラストはYoChan作) 現役のITエンジニアで、「世にない新しいものを作る」をモットーに活動しています。いつでも頭の中は新しいアイデアの事でいっぱい。守備範囲は、8080/6800アセンブラから、iPhone/Androidアプリ、Device Driver、 PHP、Python、Codex/Kiroまで、ソフトウェアを全方位でカバーします。 今まで ・DOS/V (誰でも日本語でパソコンを使えるようになった、自作できるようになった) ・ThinkPad (いつでもどこでも学びや仕事ができるようになった) ・ChipScape (てのひらサイズでインターネットが見えるようになった) ・WorkPad (iPhone/Androidで花開いたハンドヘルドコンピューティングの礎となった) ・ピークシフトPC (二酸化炭素排出の一番多い時間帯の消費電力を自動カットする発明で環境問題に貢献した) などを作ってきました。その中で特許になった技術もたくさんあります。 世にない新しいものを作ってみたい、特許を取りたい、コンピュータサイエンスやソフトウェアで世界を変えたい、チャレンジャーを力強くサポートします。 当ハイテックラボHPをmatushitaお兄さんと作っています。WEBサービスやAIを作ってみたいチャレンジャーも、いないかな? <A HREF="https://hightech-lab.org/htl/hatori/?p=43">→</A> 

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